前橋簡易裁判所 昭和41年(サ)192号 決定 1966年7月07日
申請人 李丙永
主文
1、前橋簡易裁判所裁判所書記官は、同裁判所昭和四〇年(ハ)第一〇六号貸金請求事件の訴訟記録中別表記載の書類の謄本交付申請について申請人が過貼した同表記載の過貼印紙に未使用証明を付して申請人に返還しなければならない。
2、申請人その余の申立を却下する。
理由
一、本件異議の趣旨および理由は、申請人作成の「異議の申立」および「訂正並びに補足の申立」と題する各書面記載のとおりである。
所論は、申請人が民事訴訟法一五一条三項によって前橋簡易裁判所昭和四〇年(ハ)第一〇六号貸金請求事件に関する別表記載の証人尋問調書その他訴訟記録の謄本の交付を同裁判所裁判所書記官に請求したところ、これらを作成し交付すべき同裁判所裁判所書記官は民事訴訟用印紙法に定める印紙額のほか民事訴訟費用法二条、訴訟費用等臨時措置法二条に定める書記料相当の印紙額を決定した。しかしながら、訴訟記録の謄本交付手数料として納付すべき印紙額は民事訴訟用印紙法一〇条あるいは同法一六条一項に拠るべきであるのに、右規定のほか民事訴訟費用法二条、訴訟費用等臨時措置法二条を適用して印紙額を決定したのは民事訴訟用印紙徴収を定めた法規の解釈、適用を誤まった違法がある。ゆえに、これによって申請人のこうむった費用額の償還を求める、というのである。
二、そこで、民事訴訟用印紙法と民事訴訟費用法をみるに、前者は当事者その他利害関係人が裁判所に対して判断その他一定の行為を求めるに際し、その対価を印紙貼用という方法で支払うべき手数料を定めた徴収規定であるのに対し、後者は訴訟費用算出にあたり基準となるその範囲と額を定めたものであって前者のような徴収規定ではなく、この点において両者はその性格を異にするものと認められる。
右に述べたような民事訴訟用印紙法の趣旨からすれば、訴訟記録の謄本交付申請がなされた場合、裁判所にとって最も影響を受けるのは書類の枚数であるから交付すべき書類の枚数を標準として手数料額を決定する措置は極めて合目的的であり、その法的根拠を民事訴訟用印紙法一〇条のほか民事訴訟費用法二条の準用ないし類推適用に求める考え方は、一応首肯できるところである。
しかしながら、およそ国が収納すべき課徴金の一種である手数料の徴収については法律またはその委任に基づく命令、規則等に拠ることが必要であるところ、民事記録の謄本交付手数料に関する「民事調停法による申立手数料等規則」二条二項、「家事審判法による申立手数料等規則」三条二項、刑事記録の謄本交付手数料に関する「刑事訴訟法施行法」一〇条のような特別規定のない以上、立法論としてはともかく、規定の性格を異にする民事訴訟費用法二条を準用ないし類推適用することは解釈論として許されないと解さざるをえない。
したがって、前橋簡易裁判所裁判所書記官が訴訟記録の謄本交付手数料として徴収すべき額は、独立した書類の個数ごとに民事訴訟用印紙法一〇条に定める印紙額によるべきであるのに、この額を超える決定をした処分は民事訴訟用印紙法の適用を誤まった違法がある、といわなければならない。
三、ところで、申請人は、右裁判所書記官の違法な処分によって申請人のこうむった財産上の損害の賠償を求め、なお、異議申立費用は裁判所書記官の負担とする旨の裁判を求めているが、この点に関する申立は、裁判所書記官の処分に対する異議において主張することが許されない筋合のものであって申立自体不適法であるというべきである。
四、以上の次第であるから、本件異議申立のうち理由のある限度においてこれに対応する処分として過貼印紙の返還をすべきこととし、その余の申立は却下することとする。
よって、主文のとおり決定する。
(裁判官 喜多昭二)
<以下省略>